村上ファンドの阪神電鉄買収、楽天のTBSに対する敵対的買収のニュースで何かと話題になっている「株式会社」について復習してみた。

例題

  1. 株式会社制度は中世の地中海貿易でリスクを減らすために考え出された方法です(保険制度と先祖はおなじ)。ここでは以下の例題を元に議論していきます。
  2. 毎年春先にベネチアで毛織物を仕入れて、アレクサンドリアまで運んで香辛料と交換する、秋口にベネチアに香辛料を持ち帰る
  3. 毛織物の仕入れ・諸経費には100マカロニ(ほぼ中級貴族の全財産に匹敵する)かかります
  4. 1隻分の香辛料はベネチアでは250マカロニで売れます
  5. 平均して2隻に1隻の割合でトルコの海賊に襲われたり嵐に見舞われたりしてベネチアへは帰ってきません

リスクとは

  1. リスクとは収益のばらつきです。
  2. 損をする可能性ではない事に注意してください
  3. 例題の貿易のリスクは以下のように整理できます。50%の確率で一財産築けますが、50%の確率で破産します。いわゆるハイリスクハイリターンってやつですね。
    現象確率収入収支
    成功50%250+150
    失敗50%0-100
    期待値125+25

リスクを減らすには

  1. 共同出資
    • 春先に5人で100マカロニずつ出し合って東方貿易公司をつくり、5隻の船を仕立ててベネチアから送り出し、秋口に香辛料を売った現金を配当します。
    • こうすることにより配当の期待値は同じでも、リスク(収益のばらつき)は下がります。鼎任發覆儲かる確率は少なくなる代わりに全てを失う確率も下がる。
      現象確率配当収支
      5隻帰還3.1%250+150
      4隻帰還15.6%200+100
      3隻帰還31.3%150+50
      2隻帰還31.3%1000
      1隻帰還15.6%50-50
      0隻帰還3.1%0-100
      期待値125+25
    • 1隻が帰還する確率がpのとき、m隻のうちn隻帰還する確率をExcelの関数風にあらわすと
      POWER(p,n)*POWER(1.0-p,m-n)*COMBIN(m,n)
      と表すことが出来ます。
  2. 所有と経営の分離
    • 複数の人間で資金を出し合って船団を仕立てるのだから、何も自分でアレクサンドリアくんだりまで行く必要はありませんね
    • 代わりに勇気も才能もあるが、財産を持っていない若者に船を任せたらどうなるでしょうか?
    • 仮に彼らが75%の確率で帰還できるとすると一人あたりの収益は下図のように変化します
      現象確率配当収支
      5隻帰還23.7%250+150
      4隻帰還39.6%200+100
      3隻帰還26.4%150+50
      2隻帰還8.8%1000
      1隻帰還1.5%50-50
      0隻帰還0.1%0-100
      期待値187.5+87.5
  3. 有限責任
    • 東方貿易公司は、出資金の他にトスカーナ興業銀行から年利2割で500マカロニの借金をしてさらに5隻の船を仕立てることにしました。これにより一人あたりの収益は以下のようになります。
      現象確率粗利配当収支
      10隻帰還5.6%500380+280
      9隻帰還18.8%450330+230
      8隻帰還28.2%400280+180
      7隻帰還25.0%350230+130
      6隻帰還14.6%300180+80
      5隻帰還5.8%250130+30
      4隻帰還1.6%20080-20
      3隻帰還0.3%15030-70
      2隻帰還0.0%1000-100
      1隻帰還0.0%500-100
      0隻帰還0.0%00-100
      期待値375255+155
    • ここで注目したいのは、借金が払いきれず会社が破綻したとき(帰還したのが2隻以下の時)には配当がマイナスにならないことです。
    • つまり出資者は、出資金を全て失う以外の損害は負わなくて良いのです。これを「有限責任」と呼びます
    • ぢゃあ何でトスカーナ興業銀行が株主にならないかというと、事業がうまくいかなかったときに優先的に会社の資産を差し押さえられるので損をする確率が低いから
      • 株主の場合
        期待利回り   +155% (ばらつきあり)
        
        1.6%の確率で −20%
        0.3%の確率で −70%
        0.1%の確率で −100% (2隻以下しか返ってこないときは収益は銀行だけのもの)
      • 銀行の場合
        期待利回り   +20%  (99.9%の確率で20%の利回りが得られる)
        ただし、
        0.1%の確率で ±0%   (2隻返ってきたときは収益500マカロニは配当よりも優先して返済にまわされる)
        0.0%の確率で −50%  (1隻返ってきたときは収益250マカロニは配当よりも優先して返済にまわされる)
        0.0%の確率で −100% (0隻返ってきたときはどうしようもない)

保険から事業に

  1. 株式会社制度はその後、「保険」という性格から「継続的な事業を始めるための資金調達」の性格が色濃くなっていきます
    • 有望な新規事業にいち早く資金を集めて事業を立ち上げる
    • 一度限りで解散してしまうのではなく配当という形で利益の一部を配分することにした
  2. この制度を利用することによって、有望な新航路が見つかると莫大な資金が素早く投入され、いち早く開拓されるようになった
    • 西欧諸国のインド会社
    • 英国のアフリカ会社(欧州から工業製品をアフリカに輸出、アフリカから奴隷をアメリカに輸出、アメリカから砂糖を欧州へ輸出)
    • 大航海時代の貿易によって資本が蓄えられて産業革命へ
  3. 「新航路」を工業に置き換えたのが産業革命
    • ワットの蒸気機関
    • ベッセマーの転炉(鉄を精錬するときに空気を吹き込んで炭素量を調整。鋼鉄の大量生産を可能にする技術)
    • エジソンの電球
    • グッドイヤーのゴム(天然ゴムに硫黄を添加すると自動車のタイヤに使える柔軟性・耐久性を得る)

株を買うとは

  1. 会社の支配権を買う
    • 株式会社制度のいきさつからも、個々の会社が立ち上げられたときの出資金の出所から見ても、株式会社は船主(=株主)のもの
    • 上級乗組員(=経営陣)のものではない
    • 一般乗組員(=従業員*1)のものでもない
    • 顧客のものでもない
  2. 会社の資本を買う
    資本 = 会社を立ち上げるときの出資金 + 利益の中からの積立金
         = 資産(船+在庫) - 負債(借入金)
  3. 配当金の合計を買う
    1. 毎年約2000マカロニの利益から200マカロニの配当を出すとし、毎年10%の確率で会社が破綻すると見積もるとすると、株式時価総額の合計の理論値は?
    2. n年分の配当の合計は
      S(n) = 200 + 200*0.9 + 200*0.9*0.9 + ... + 200*(0.9^(n-1))
       
      小学校で習った等比級数の合計の式を使って
             S(n) = 200 + 200*0.9 + 200*0.9*0.9 + ... + 200*(0.9^(n-1))
      -) 0.9*S(n) =       200*0.9 + 200*0.9*0.9 + ... + 200*(0.9^(n-1)) + 200*(0.9^n)
      --------------------------------------------------------------------------
         0.1*S(n) = 200 - 200*(0.9^n)
       
      ∴ S(n) = 2000 * ( 1 - (0.9^n) )
    3. n を ∞にすると
      時価総額の理論値 = S(∞) = 2000
  4. 実際にはこれらが混ぜ合わされて、さらに成長性が加味されて株価が形成される

IT企業がオールドエコノミーの大企業を買おうとするのは

  1. 成長性が過大に見積もられている → 時価総額が大きい
  2. 過大評価が是正される前に、時価総額が大きいことを利用して多額の資金を調達して、利益の絶対額は多いが株価が安い(つまり成長期待値の低い)大企業を買収したり、あるいは合併する
    1. AOL Time Warner
      楽天-TBS?
    2. 例えると
      若い美女 = 年1億円稼ぐ中年男
      で現時点では釣り合いのとれた結婚をするようなもの
      10年後には
      普通のおばさん と 年1.1億円稼ぐ初老の男性
      の夫婦になる。
      AOL Time Warner の場合には正にそうなっていて、初老の男性が別れを切り出している状態(^^;
  3. ピエロになって世間を騒がせ、成長性が過大に評価されていることを気づかせない
    1. ホリエモン?

Culture


*1 ちなみに商法上は「使用人」

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Last-modified: 2006-02-16 (木) 01:06:19 (3943d)
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9784061426061